今回は便の色についてお話します。
便は誰でも排泄します。どんなイケメン君も、どんな美女も。
ところで便の組成ってみなさんご存知ですか?
健康な人の便は消化液などの水分が全重量の80%ほどを占め、残り20%のうちの3分の1が消化しきれなかった食物繊維などの残渣で3分の1が消化管粘膜の脱落したもの、残り3分の1が腸内細菌やその死骸です。ですから理論的には何も食べなくても便はちゃんと出てくることになります。
消化器の外来には季節柄、下痢を主訴にいらっしゃる方も多いですが、便通異常を主訴に受診される方も多くいらっしゃいます。便通の異常とひとくちに言っても、頻度、硬さ、ゆるさなどの性状、色、臭いなど、さまざまな異常があります。まず、異常を議論する前に正常な便とはどのようなものでしょうか。
理想的な便はバナナ状(形と硬さです)の便が2本程度、合計200gほどだそうです。色は黄褐色、つまり子供の頃、色鉛筆、絵の具などでみた黄土色です。便の量や腸管内での停滞時間により、濃い、薄いは多少あります。かなり大雑把にいうと茶色です。
何を食べてもなぜ一様に茶色になるんでしょうか。いろんな色を混ぜるからと思われるかもしれませんが、これにはちゃんと理由があります。消化液である胆汁の中にあるビリルビンのためです。
ビリルビンは赤血球の分解物から産生される胆汁の色素です。ビリルビンは肝臓でグルクロン酸抱合という変化を受けて胆汁の中に流れて十二指腸に排泄されます。そこでウロビリノーゲン(一部は再吸収されて胆汁中に再分泌される)、そして橙色のウロビリン(大半が便中に排泄される)に代謝されます。これらの胆汁色素が典型的な便の色の素となっています。
便の色の異常
では便の色の異常とはどんな種類があるのでしょうか。原因から考えますと大きく2種類に分けられます。正常の便でつけられるはずのビリルビンによる色がつかないものと、他のものが混ざったことによる色の変化の2種類です。
ビリルビンによる色がつかない場合
この場合は白っぽい便になります。胆汁が十二指腸に流れて来ないような胆管癌、総胆管結石などによる狭窄や閉塞、急性肝炎などによる強い肝機能障害などでうまく肝臓が働いていない時などです。
他のものが混ざった場合
この場合は食べたもの、一部の薬剤、そして胃や腸などの消化管からの出血による血液が混ざった場合です。健康診断などでバリウムを飲んだ後は白い便が出ますが、もちろん心配はありません。貧血のために鉄剤を内服していると黒い便が出ます。また、イカ墨パスタなんかでも黒い便が出ても不思議はないようです。
問題な黒色or赤色便
問題となるのは、消化管からの出血により便が黒くなったり赤い血便になったりした場合です。
消化管出血による黒色便は血液が胃酸と混じって変化を起こし、黒くなるのが原因です。
この場合は主に上部消化管である食道、胃、十二指腸からの出血を疑います。
主な疾患として、食道癌、逆流性食道炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃癌、十二指腸癌、急性胃粘膜病変などです。
黒色便になるには約100〜200mlの上部消化管出血が必要といわれ、典型的にはタール便といわれるコールタールのようなべったりした感じの便になることも多いです。
一方、血便といわれる赤い血液が混じった便、もしくは表面についた便が出たときは通常、小腸や大腸などの下部消化管や肛門からの出血を疑います。
上部消化管出血でも出血量が多く急速に腸管を通過するような場合には赤い場合もあります。
血液が混じったように見える便や赤黒い感じの便は比較的上の方からの出血、便の表面に血液が付着しているような場合や鮮やかな赤色の血便は比較的肛門に近い部分からの出血など、ある程度の推測ができます。
赤い血液が出てきている・粘液や膿が混じっている場合は直腸やS状結腸などの炎症によるものが疑われ、新鮮血(出血してすぐ)のような血液の場合は、痔核などの肛門からの出血が疑われます。
血便をきたすような病気には0-157による出血性腸炎などの感染性腸炎、大腸憩室からの出血、癌、ポリープなどの腫瘍からの出血、虚血性大腸炎、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患、いぼ痔といわれる痔核や切れ痔といわれる裂肛などがあります。
昔、医師になりたての頃、先輩医師から、からだの中から出てくるものの色、臭い、量は常にチェックしろとしつこいぐらいいわれました。便の色が茶色くないというだけで非常に大きな情報になります。便の色が赤い時、黒い時、白い時は要注意だということがお分かりいただけましたでしょうか。このような場合にはすぐに医療機関を受診してください。
すぐに気づくためにも日頃から排便後は流す前にまず色をチェック、これを心掛けてください。
受診時に写真などがあると大変有用です。時折、そのものをお持ちくださる真面目な方もいらっしゃいますが、写真だけで結構です。